日本の心・さいき

日本の心で、世界平和の実現を!

ある小児科医の独り言(その8)

 医師免許を手にして、臨床を始めてから30年以上も経過した。そして、もう直ぐ還暦を迎えようとしている。自分の場合、運が良かったのか、周りに恵まれたのか、多分、両方だと思うけど、まあ、救急医療ばかりをしていた割には、無難にここまでよく来れた方だと思っている。1人常勤小児科医での病院生活と、1人でのベッドを持っての開業医生活、トータル18年間もしていた。今は、二人だけど。
 1人と複数でする時の心境、全く違う。裁判沙汰になったこと、もちろんあるし、その一歩手前まで入れると、100件どころじゃないと思う。が、それでも、大きなトラブル、少なかった方だと思っている。
 睡眠不足でフラフラになって働いている時、「何かあったら、忙しいでは理由にならないよ!訴えられたら負けになるよ」とあるドクターから忠告されたこともある。救急医療では、いきなり初診で来て、その場で患者さんとのコミュニケーションを取らないといけない訳で、こちらとしてはいい治し方をしてきたと思っていても、親御さんからは、そう思われないケースも多々ある。
 入院させて短期間で帰すと、入院しなくても良かったのではと思われるし、外来で時間外にも頑張ってやむなく入院させると、もっと早く入院させてもらいたかったと言われるし、なかなか難しい。新生児・未熟児医療だと、親御さんが付き添っていないだけに、こちらの深夜の苦労は全く見ていない訳で、後で後遺症が残ったり、帰る時に捨て台詞を言われると、ホントに華厳の滝に真っ逆さまに落ちる様な感じになる(何度もあったな)。
 「先生の言うこと分かるが、兎に角、俺の言う様にしてくれ!」と言われて、こちろのメンツなく、(検査や点滴や時間外診療など)そうせざるを得ないケースも多々あった。
 しかし、私も歳を取って丸くなったのか、そんな親御さんを恨む訳でもなく、全て自分の肥やしにしてもらえたと思って感謝している。
 時間外に来て、外来で、父親が一言も言わずに、帰るケースが今も多い。退院する時、若いお父さんが、寝そべっていて、何も言わないケースもある。が、それで腹を立てることも、もう、なくなってしまった。これも、歳のせいかなあ。
 時代がそんな時代なのだ。他人の為に犠牲的精神でもって生きることが馬鹿みたいに言われることもあるのに、ドクターに関しては、主治医なら深夜でも来るのが当たり前って感じになっている気がするけど。
 医者も人間、やはり、1週間に1回、ゆっくりと休みたいと思うのだが、救急病院の勤務医や開業医だと、なかなかそうはいかないかな。
 今年も医学部の人気は相変わらず高いが、犠牲的精神の高さはどうなのかなあ。そして、最も大切なコミュニケーション力と、それに、鈍感力はどうなのかなあ。
 医師の場合、臨床を10年もすれば、皆、経過はどうであれ、その道プロのドクターになっている。その時、大切なのは、裸の王様でなく、周りをよく客観的に見れる能力かな?!