日本の心・さいき

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ある小児科医の独り言(その52)

 今年の3月の終わりで、一応、自分の仕事に区切りを付けることになっている。今になってやっと、ありふれた病気の治し方が分かった様な気がしている。もちろん、この歳では、大病院で扱う病気に付いては、もう、付いていけない状態だが。
 外来でよくあるカゼ症候群、今まで何と無駄な治療をしてきたかと思う。特に、抗生物質を処方し過ぎていたこと。しかし、考えてみるに、昔は、溶連菌の検査も採血して1時間ぐらいでやっと判明していて(自分が大学の時にその係りであったが)、気軽に出来る検査ではなかった。今は、細気管支炎の原因のRSウイルス(外来では診断が付いても医療費を請求できないが)、ロタウイルスアデノウイルス、そして、インフルエンザと、外来で簡単に出来るのだ。
 しかし、時に、インフルエンザに溶連菌が合併していたりもする。合併のした時の対処の仕方は、(教科書に書いてないだけに)その場の状況に応じてそれなりに判断して決めるしかない。
 かって、インフルエンザの時期に、乳児が、熱が下がったのに、再び高熱となった。子どもによくあるインフルエンザの二峰の熱かどうかで悩むのだが、結構、検査も著変なくて、元気がいい。結局、この子の場合は、その後に発疹が出て、インフルエンザ後の「突発性発疹症」であった。
 又、インフルエンザ後に、1歳の子が、再び高熱が出て、今度は、全く元気がない。しかし、検査は、特に問題ない。よく観察していたら、コップリック斑があって、その後、発疹が出て、「麻疹」であった。
 第一線の医療では、頭を柔軟に保って、いろんなことを想定しておかないといけない。教科書をバチッと頭に入れた上で、今までの経験と照らし合わせることも必要だ。
 昨日、自分が主治医ではなかったが、2月28日(土)と3月1日(日)の2日間任された13歳の子が無事に退院した。
 この男子の場合、インフルエンザB型と検査で出て、嘔吐なく、又、2月27日の白血球が5270、CRPも0.78で、ウイルス所見で、しかも、主治医がインフルエンザ(+急性胃腸炎)と思って、抗生剤も使用していなかった。それに、漢方薬の五苓散でその時に軽快してしまった。3月2日(月)には、(主治医が診て)はっきりと急性虫垂炎の症状があって、その日の夕方に手術となったのだ。で、診断が遅くなった関係で、昨日やっと退院となった。
 今まで、急性虫垂炎でいろんなことがあった。その中でも、トラブッてしまった例を今でもよく覚えている。
 5歳前後の男児で、精神発達遅延のある子だった。急性胃腸炎で入院して経過を診ていたが、急性虫垂炎も疑われる。院内の外科の先生が、「小児科の先生が手術をと言えば、開けます」と言われた。院外の外科の診断を受けたいとの親御さんの願いで、紹介状を書いて送ったら、紹介先で、急性虫垂炎と言われて、紹介先で手術となった。で、親御さんが立腹して、医療費を払わなかった。
 14歳前後の男児で、早朝、腹痛で来た(平日は、朝7時半から診ていた)。外来が100人近く来ていて、忙しくしている状態で診た。他医院で診てもらっているのだが、紹介状もなく、お腹がとても痛いと言うことで来院している。お腹のどこを触っても痛がる。どうしてかなあと思っていた。で、急性胃腸炎でこんなに痛がるかなあと思いながらも点滴をずっとして、午前中の外来を終えて、午後になってその患者さんをゆっくりと診た。急性虫垂炎ではと思って、院内の外科の先生に診てもらったら、急性虫垂炎→腹膜炎で手術となった。で、親御さんから、「朝から子どもがひどく痛がっているのに、どうして早くしてくれなかったのか・・・」などとひどく立腹されて言われた。
 子どもの脳腫瘍や虫垂炎、世間では、誤診と言われるが、それは、結果論で、第一戦では、どの医者も難儀しているのだ。その診断の難しさは、それを沢山経験した医者しか分からないのではと思っている。