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ある小児科医の独り言(その39)

 医療訴訟は、小児科では、実際に裁判沙汰になったケースは産科や脳外科と比べると、明らかに少ない。しかし、弁護士を通じての裁判にはならなかったものの、患者さん側とのトラブルは、子どもに関しては多いのではないかと思っている。特に、親御さんとそれを診るドクターが初めて顔を合わせる感じの救急の現場では。
 大きな病院では、小児科専門医が24時間365日、小児科に関する患者さんを全て診ること、可能かも知れない。自分にしても、そんな医療を2年7カ月したこともある。確かに、いい医療が出来たと思っているが、5人で(今は、6人で)5日1日の当直では、体力的にいつかは参ってしまう。ドクターが集まる広い医局で、午後にコックリコックリして寝ている姿の殆どは、当直明けの小児科の先生だったかな。
 救急をしている大きな病院では、時間外の医師として、内科系と外科系と小児科系との3本立てでしているケースが多いと思われる。本当に救急を要するケースは、小児科の場合は少ないと言われているが、来院するケースは、救急病院では、他の科と比較して明らかに多いのだ(当院でも、ほぼ3分の1は小児科)。しかも、今の時代、不景気で昼間は仕事をせざるを得ないし、仕事から帰って慌てて時間外に医療機関を受診というケースも多いし、それに、小さな子どもでは、深夜でも、医療費が無料のケースも。しかし、小児科医の資源は限られている。
 200床足らずの病院では、当直医が全てをしないといけないケースが多い。内科の先生でも、小児科以外に、簡単な外科の処置や整形外科の処置などもせざるを得ないことが多い。整形外科の先生が、今まで診察もしたことのない小児をいきなり赴任してきた病院で、当直医として診ないといけないケースだって、現にあっていた(しかも、当直明けに手術のケースも)。
 医療訴訟を恐れて専門外だからと言って断れば、当直医としては安泰なのだろうけれども、土日などで医療機関が遠くにしかない場合は、それもし難い。
 一番大事なことは、診る医師自身が、自分の限界をそれなりに自覚しておくことで、守備範囲を広げてしまうと、思わぬトラブルに巻き込まれることになる。(働き過ぎて体を壊しても、医療訴訟に巻き込まれてしまっても、そのドクターの責任になってしまっている今の風潮、ホントに納得し難いですが・・・!)
 小さな子どもを時間外に連れて来られたケースでは、親が高熱だけでもパニック状態になっていることもあり、その対処の仕方で苦慮することが多い。
 第一線では、例えば、生まれて数ヶ月の子どもの熱や乳幼児が腹痛で来院した場合、永くいろんな経験を積んだ小児科医であっても確信が持てないケースがしばしばである。そんな場合では、経過を診れば分かることが多いし、又、今検査をバチッとするべきか、点滴だけして帰すべきかなど、しばしば迷っているのが現状なのだ。それに親御さんからいかに有用な情報を仕入れるかが一番大切なのだが、いつも見ている親が付いて来てないケースや、他医院での治療の仕方がよく分からなくて来ているケースもしばしばである。
 いい医療は、やはり、患者さん側と医療側の協力で為し得るものである。又、医療には、不確かさがあり、後で分かることが多いのである(時に、最後まで分からなくて終わることもあるが)。それに、治療や検査でも、危険を伴うこともある訳で、何かあれば医療側の責任となってしまうと、医療側も医療をするのをためらいがちにならざるを得ない。
 漢方にしても、副作用はあるし、腸重積症にしても、整復中に腸が破れることもあるし、レントゲンを撮っても、骨折などが写っていないこともあるし、溶連菌やインフルエンザの検査をしても、陽性なはずが陰性のこともある。
 結論は、自分の健康管理は、原則的には自己責任で管理し、何かの時には、医療機関と上手に付き合っていくこと・・・ではないだろうか。