日本の心・さいき

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ある小児科医の独り言(その37)

 昨日(土曜)は、結構、忙しかったかな。病棟の子を(他の小児科医の受け持ちの3人を代診で)診て(自分の受け持ちの帝切児症候群と初期嘔吐の新生児2人も著変ないことを確認して)、午前中10人診て、夕方2人診た。
 ここまではすんなりと行ったのだが、19時過ぎから、入院中の13歳のインフルエンザB型(5日目)+急性胃腸炎男児がすごくお腹を痛がるようになって、付き添いの母親から不安そうな顔で、「先生、盲腸じゃないでしょうか?」と言われた。
 (急性虫垂炎では、下痢はさほど強くないことが多いのだが)下痢が2日前からあり、(金曜に)主治医が心電図や腹部レントゲンや血液や尿のの検査をしている。腹痛の最強点の位置が急性虫垂炎の典型的な場所よりもやや下中央寄りにあって、腹膜炎のサインははっきりなくて、どうも(主治医の判断と同じく)腸炎らしい。
 子どもの脳腫瘍や虫垂炎、今まで、何度これで悩まされてきたことか。直ぐに、血液と尿の検査をした。症状としては、熱があり、それなのに顔色青白く、食欲なく、嘔吐ないも、腹痛が今までで一番強くなっている。当直の内科のドクター(副院長でもあるが)と相談した。ポータブルの超音波検査で診ると、疼痛部の腸壁が異常に腫脹しているのがよく分かった。イレウス像はない。少なくとも、虫垂がはっきりと大きくなった像は見えない。
 血液検査の結果は、白血球は多くなく、血液像の変化は前日と大差ないも、CRPが昨日1以下が5近くになっている。で、ユナシンSなる抗生剤を入れ、今まで処方されている整腸剤と(葛根湯使用後の)柴胡桂枝湯はそのまま使用して、それに、五苓散を追加した。
 何と、五苓散が腸のむくみを軽減させたのか、30分足らずで、痛みが治まり、今日の朝は、熱も37度前後になって、腹痛も明らかに軽くなり、顔色も良くなって元気そうだ。「月曜(明日)帰れますか、水曜日に、試験があるので・・・」と母親から尋ねられた。
 又、昨日(土曜)の21時頃、病院から帰る時に、遠方から1歳の男児が来た。右手を動かさない、手首をどうかしたみたいと父親が言う。当院掛かり付けの患者さん(父親は、消防隊員で母親は保健師)。父親とその祖母が心配そうにしている。子どもは、右手が良性肢位にされてタオルで巻かれている。
 診察室に入らず、受付の所で、「どれどれ見せて・・・」と言って診ると、手首を触っても痛がらない。上の子どもが手を踏んでからそうなったと言う。で、右手を回外位にして、ちょっとだけ力を入れると、「コクッ」っと小さな音がした感じで簡単に整復されて、直ぐに、その手を子どもが挙げて、その手でバイバイして帰って行った。
 劇的に治ると、疲れも吹っ飛ぶ感じだなあ。
 ところで、この「肘内障(ちゅうないしょう)」、実際は、とても注意が必要なのだ。
 私が初めて整復したのは、大学勤務時代に、ある町立病院に出張していた時で、外科の先生が手術室に入られた直後に肘内障の子どもが来て、ずっと待っていなければいけない状態にあった。で、看護師さんから、「先生、しょっちゅう抜ける子なんですよ。又引っ張ってそうなってるんですよ。整復して下さい!」と言われた。それまで、肘内障の整復の経験は全くなかったが、方法は、学生の時に、整形外科の講義で教わっていた。確認の為に、そこにある整形の教科書を再び見て、恐る恐る整復したら、いとも簡単に出来た。嬉しかった。今でも、その時の感激を覚えている。
 私が佐伯市の救急病院に赴任した直後(昭和55年4月)、整形外科の先生から真っ先に言われた。「肘内障とはっきり診断が付けられれば、ドンドン整復をして下さい。しかし、骨折だと、大変なことになるから・・・(実際、その事例が過去にあったらしい?!)」
 福岡県の病院勤務の時にも、それでの過去のトラブルが問題になっていた。恐らく、全国アチコチでもあるのではと思われる。はっきりと引っ張った既往があればいいのだが、それがない時は、慎重に対処すべきだ。もしも骨折であれば、最悪になるかも知れないのだ。ちょっとでも疑えば、レントゲンを撮って確かめるべきである(深夜だと、小さな病院では、レントゲン技師さん確保で大変だが)。
 今まで、救急ばかりしていた関係で、(30年以上も臨床をしているので)100例近く整復してきたと思う(顎関節の脱臼も経験している)。肘内障、時間外でも、整形外科の先生が簡単につかまれば、整形外科の先生にお願いするが、つかまらない時は、自分の判断でしている。一例だけ、肘内障と思うが、どうしても整復出来なくて、整形の先生に無理をしてお願いしたことがある。その時、整形外科の先生が瞬間的に力をグッと入れて簡単に整復されている姿を見て、自信に裏付けされた結果だなあと敬服したものである。
 ある時、沢山経験している整骨院の先生と話した。その先生の話では、「整形外科でどうしても出来ない時、私所に回ってくることあります。回外位で整復で出来ない時、手を伸展させて、回内位にしてから、再び回外位にすると、整復できることがあります。しかし、どんな人がしても整復できない肘内障、あるんですよ。数は極めて少ないですが。その時には、1晩おけば、必ず入ります」と言われた。
 実践では、教科書に書いていないこと、多いなあ。

*ある(自分が勤めていた)病院で、救急で子どもが肘内障の疑いで来院した。その時、ある当直の先生は、両側のレントゲンまで撮って、骨折の有無を確かめていた。で、骨折がないと言うことで、帰したのだが。やはり、痛みは止まらず、他の医療機関を受診して、その結果、「骨折」であった。で、その時の写真を多くの関係者が分析した所、骨折がそれでははっきりと写っていなかった!のだ。つまり、レントゲンを撮っても、角度により骨折がはっきりと写らないこと!!あるのです。