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退職後の雑感(217)

  「退職後の雑感、ウイルスには、抗生剤は、無効です!」

 小児科を受診する患者さんの主訴で多いのは、発熱です。その発熱の原因の大半は、微生物による感染症で、その微生物の大半は、特効薬のないウイルスです。
 麻疹や風疹のウイルスには、ワクチンがあり(最近は、冬の下痢で乳児が入院を余儀なくされるケースが多いロタウイルスのワクチンも出来ていますが・・・)ますが、しばしば罹患するカゼ症候群(急性上気道感染症)のウイルスには、特効薬はありません。(←インフルエンザウイルスとヘルペスウイルスには、幸いに、特効薬が出来ています・・・)
 (1)「抗生物質は、ウイルスには、全く効かない」、
 (2)「抗生物質は、時に、ウイルスにも効く場合がある」、
 (3)「抗生物質は、ウイルスに効く」の質問を(依頼された講演の会場で挙手をしてもらって)したことが何度かありますが・・・2を上げる人が、結構多いのです。正解は、1で、ウイルスには、抗生物質は、効きません!
 3歳未満の子どもさんが来院して、喉が明らかに赤くなっている場合、しばしば親御さんから抗生剤を下さいと言われます。以前、それで治ったからと言われることも、よくあります。
 ここで、医学的見地から、考えてみたいと思います。
 熱が高くて、喉が赤い場合、いろんなケースがあります。夏だと、いわゆる夏カゼの「ヘルパンギーナ」があります。小さな乳児ですと、喉ちんこ(医学的には、口蓋垂と言いますが)の周りに、大きな水疱が左右対照的にポツンポツンと1つずつと見えて、その周囲が赤くなって、子ども自身が痛がっていることが多いかと思います。ヘルパンギーナも、年齢が上がるに従って、水疱の数が増え、大きさがどんどん小さくなっていき、大きな子どもさんですと、水疱がなくなって口蓋扁桃が赤くなっています。もちろん、この疾患では、(細菌に効く)抗生剤は不要です。
 冬ですと、インフルエンザが多いのですが、インフルエンザの喉、一般の人が思っている程、赤くないことが多いのです。インフルエンザの場合、喉をとても痛がり、とてもきつがるケースが多いかと思います。(意外なことに、乳児がインフルエンザになった場合、上の兄弟よりも症状が軽いことが多いのですが・・・)
 熱が高くて、口蓋扁桃が赤くなっていたり、白苔がはっきりと付いている時、「アデノウイルス感染症」が多いのですが・・・外来でアデノチェック検査が簡単に出来、それで陽性にならない場合でも、アデノウイルス感染症が否定できません。
 アデノウイルス感染症の症状としては、高い熱が続き、鼻汁(鼻閉)や咳嗽があり、高い熱がある割には、さほど一般状態が落ち込んでいないことなどで疑います。
 アデノウイルス感染症の検査では、細菌感染症の検査結果と同じ様に、白血球が多くなったり、炎症反応を示すCRPが上がったり、血沈が促進したりすることがしばしばです。
 アデノウイルス(その多くは、発生学的には内胚葉親和性?!)には、流行性角結膜炎や出血性膀胱炎を起こすものなど、多くの種類があります・・・夏に多いプール熱咽頭結膜熱)では、その名前の通り、喉が赤くて(咽頭炎)、眼が赤くて(結膜炎)、熱があります。
 年齢が3歳を超えていて、喉が赤くて、とても痛そうにして、きつがっていれば、まず、溶連菌感染症を考えて、外来で、直ぐに溶連菌検査(ストレップA)をするべきだと思います。と言うのも、抗生剤を1度でも服用してしまうと、翌日の検査で陰性と出るからです。それに、溶連菌感染症の時には、腎炎などの合併症を防ぐ意味で、しっかりと抗生剤をあげ続ける必要があります。
 溶連菌感染症ですと、昔は、軽い抗生剤であるペニシリンG剤を10日投与していましたが、今は、それでは不成功(25%不成功)に終わることが多いと言うことで、アモキシシリン5(~6)日投与などが行われていますが・・・(←投与の仕方も、今は、いろいろ言われており、又、兄弟への予防的投与の是非も、いろんな意見がありますが・・・)。
 溶連菌の場合は、アデノと同じ様に喉の所見がはっきりとあることが多く、アデノと違って、3歳未満には少なく、その多くに鼻汁と咳嗽がなく(!)、アデノと違って、とてもきつそうにしている事が多いのですが・・・(←さほど熱が高くなかったり、喉もあまり赤くない溶連菌のことも時にありますが・・・反対に、典型的な溶連菌の喉所見と症状があって、明らかに溶連菌なのに、喉の検査で陰性のことも時にありますが・・・)。
 抗生剤をあげて熱が下がったと思っていても、ちょうど熱が下がる時期だった可能性もあります。抗生剤は効いていなくても、抗生剤をもらうことで、親御さんが安心して、それが子どもさんにいい影響を与えて、免疫力が上がって、熱が早く下がった可能性も否定できません。
 私としては、不必要な抗生剤を与えることで、いい菌も死んで、腸内細菌が乱れて、免疫力が低下して治りが遅くなったり、感染症が繰り返されることを心配しているのですが・・・?!

*ちょうど10年前に記載した内容です。
*10年前に、日光東照宮に行った時に、撮ったものです。
アデノウイルス感染症で、高熱が続く時(熱証の時)、私は、よく、漢方薬(黄連解毒湯の1gを座薬にして)を使用していました。

 (令和4年8月12日、再掲)