「退職後のエッセイ、臨床の難しさ」
11年前の9月11日に記載した内容です。
あるベテランの弁護士さんが、テレビで・・・「一人前の弁護士になるには、試験に合格しただけでは不充分で、実際にいろんな例を受け持って、一つ一つ体で受け止めて体験して行く中で、いい弁護士になれる・・・」って感じで言われていたけど。
そうだなあ、学校の先生や看護師さんや医師だって、同じと思いますけど・・・。
教科書にちゃんと書いてあるよって言う人いるけど、各論になると、いろんなケースがあるし、それに個人差もあるので、教科書通りに行かないことも多いかな。
昨日、(発生学の講義が終わって)12時半過ぎに、9歳の男児が急患で来た。よく、外来に来る子どもだった。学校でお腹を痛がったと言うことで来院した。
鼻汁、咳嗽、発熱、頭痛、嘔吐、下痢全くなし。喉も赤くない。髄膜刺激症状もない。朝は、全く元気だったとのこと。顔色悪く、お腹をとても痛そうにずっと曲げている。左下腹部を特に痛がる。母親も、大事な一人息子なので、心配そうな顔をしている。
「今朝、うんち出た?」
「ハイ、今日は、出てます。」
「普段、便秘がち?」
「いいえ、便秘でこんなにきつがったこと、今まで一度もありません。」
・・・取り敢えず、感染症はない感じに思えたので、浣腸した。→すると、便が少し出ただけで、硬さも普通。
「お母さん、便秘が原因じゃないみたい。点滴して、外来でしばらく様子を診たいと思います。点滴する時、一緒に、検査も出来ますから・・・」(母親納得)
実は、こんな例、今まで数多く経験してきている。いろんな原因で、腸管の循環不全が起きているのでは(?)と、思っているのだが・・・?!
大学で、心臓の手術後に、時々、お腹痛がって、小児科診察を依頼されたことがある。腸への虚血と思われる。
10年半余勤務した佐伯の救急病院では、子どもが頭を打った後に、脳外科専門医から、「先生、頭じゃないごとある…先生の方みたい・・・」って感じで、小児科にしばしば紹介されていた。
この場合、あまり周りが騒ぐので(?)、「アセトン血性嘔吐症(?)」になった感じですが・・・。そんな無欲状顔貌になって、嘔吐と腹痛があって、尿アセトン強陽性の子ども、数多く経験しましたが・・・。(この場合、年齢やその子の性格や既往歴がとても大切になりますが・・・)
今回は、暑さで、脱水気味になり、腸が虚血になっていると思われた。
点滴をすると、腹痛が嘘の様に軽快して、眠ってしまった。で、検査も、脱水所見(尿素窒素の上昇あり)以外に、特に問題なし。(レントゲンの検査もなく、薬もなし)
で、目が覚めて元気なので、16時過ぎまで点滴をして、帰した。(暑さで脱水にならない様にと説明して・・・)
又、この日、18時前に救急車で、15歳の女児が来院。掛かりつけでなく、数年間、全く当院を受診してない。当直は、卒後9年目の臨床バリバリの自治医大卒の女性の産婦人科医。
その先生から、電話あり。けいれん(医師は診ていない)あり、発熱ない、呼び掛けても応じなくて、目の動きがおかしいとのこと。血圧正常、呼吸数、心拍数正常。
CT正常。一緒に来た養護の先生が、あまり慌てていない(おかしい?)。目の動きが悪い割には、一般状態がいい(おかしい?)。神経の得意な院内の内科医が診て、「HY」じゃないかと言う。血液検査もいいし、「ヒステリー」と考えると、診断に不自然なことがない。
それによく話を聞くと、2~3年前にも同じ様なことがあって、しばらくしたら、元気になって入院せずに帰れたとのこと。
で、恐らく、今回も、同じ経過をとるだろうって感じになって、しばらく様子を見ていたら、嘘みたいに元気になったので、点滴終了後に、入院せずに帰した。
目出度し、目出度し。
臨床には、時に、思わぬ落とし穴がある。思い込みは、いけない。常に、医師は、シャープな頭の状態にして的確な情報を得て、的確な判断をしていかないといけないが・・・。経過を見て、後で診断が付けられることも多い(最後まで、付けられないこともあるが・・・)。
医師としては、帰る時に、患者さんが元気になって、親御さんから喜んでもらえると、ホント嬉しいですね。
これから11年後の今、改めて自分の書いたこの内容を読んでも、充分、納得出来ます。そうなんです、病名は同じでも、一人一人、皆、経過は、それなりに違います。何年経っても、臨床では、新しい発見、しばしばです。思い込みは、自信過剰は、慢心は、誤診の元です。常に、謙虚でいて、患者さんの言うことに耳を傾け、よく診ることですね。
*写真は、2011年11月16日に、京都で撮ったものです。
(令和3年9月12日、再掲)